Anthropic の開発者カンファレンス Code with Claude 2026 が 2026-05-06 に San Francisco で開催されました(続いて London 5-19、Tokyo 6-10)。新モデルの発表は無しでしたが、既存モデル(Opus 4.7 / Sonnet 4.6 / Haiku 4.5)の上に積む**「現場の 10 倍化」のための一式が一気に出ました。本記事では keynote の発表を開発者として何を触り、何を考え直すべきか**という観点で整理します。
全体像 — 4 本柱で読む
発表は大きく 4 つの軸で読むとスッキリします。
| 軸 | 何が出たか | 誰に効くか |
|---|---|---|
| インフラ | SpaceX Colossus 1 提携、Claude Code 5h 制限の倍化 | 重い使い方をしているチーム全員 |
| Managed Agents | Multi-agent orchestration、Outcomes、Dreaming | プロダクトに Agent を組み込む層 |
| Claude Code | Code Review、Remote Agents、CI auto-fix、Security Reviews、Routines | 日常的に Claude Code を使う開発者 |
| API | Task Budgets(public beta)、Advisor Tool(beta) | API を直接叩いてエージェント基盤を作る層 |
報じられた数字としては API 利用量が前年比 17 倍、Mercado Libre が「2026 Q3 までに コーディングの 90% を自律化」を目標にしている、といった事例が紹介されました。エージェントの本気度は Anthropic 自身の自慢ではなく、ユーザー側のロードマップが先に立っている段階に来ています。
1. インフラ — SpaceX Colossus 1 と rate limit 倍化
Colossus 1 の取り込み
SpaceX が Memphis(Tennessee)で運用するデータセンター Colossus 1 のキャパシティ全量(報道では 300MW 超)を Anthropic が利用できる契約が成立しました。Bloomberg / Axios が同日報じています。
Claude Code の 5 時間制限が 2 倍
これは現場で一番効きます。これまで Pro / Max / Enterprise に課されていた 5 時間ウィンドウの usage limit が 2 倍 になりました。2026-05-06 適用。重いリポでの大型タスクや、複数の worktree を並列で走らせている運用が、5 時間の壁に当たって止まる頻度が下がります。
確認手順: アカウントポータルの利用状況グラフを開き、5/06 以降の上限線が従来の 2 倍で引かれていることを確認できます。確認できなければサポートに照会。
Claude API 側の rate limit
keynote では Claude API 側の rate limit についても開発者全般に対する増枠が言及されました。具体値は dashboard で各アカウント差があります。今までスロットリングを理由に避けていたユースケース(並列推論、長時間バッチ)を再評価する好機です。
2. Managed Agents — 新機能が 3 つ追加
既出記事で扱った Managed Agents に、3 つの大きな新機能が追加されました(うち 2 つは public beta、1 つは research preview)。
Multi-agent orchestration
1 つのタスクに対して、複数の agent を編成して投入するという枠組みです。これまで Claude Code 内でユーザーが Agent ツールを呼んで作っていた「並列サブエージェント」を、Managed Agents 側のサーバインフラ上で再現できるようになりました。
開発者目線での意味:
- 親 agent が plan → 子 agent 群に独立したコンテキストで作業を委任 → 結果を回収する流れを、サーバ側で完結させられる
- それぞれの agent の context window を別にできるため、「親のコンテキスト枯渇」を引き起こさない
- セッション ID が parent / child で紐づくため、監査ログがツリー状に取れる
Outcomes(public beta)
Agent に**「成功とは何か」を宣言的に与える**仕組みです。従来「タスクを実行して」だったものが、「この成功条件を満たすまで自分で iterate して」になります。
# イメージ
outcome:
description: "全 unit test が green、E2E smoke は 30 秒以内"
signals:
- type: command
cmd: "bun run test"
expect_exit_code: 0
- type: command
cmd: "bun run e2e:smoke --timeout 30000"
expect_exit_code: 0
この宣言を渡すと、agent は失敗時に自分で修正→再実行のループを回します。人間が介在せず収束させるための公式パターンです。
Dreaming(research preview)
名前が刺さりやすいですが、中身は地に足が付いた機能です。過去セッションを agent が自己点検し、何を見落としたか・どこで非効率だったかを抽出して self-improve に回す仕組み。研究プレビュー段階で、現時点では限定提供。
実用面で重要なのは、「あの時はこうすれば良かった」という事後学習を agent 側で取り扱えることです。今までは人間がプロンプトや system prompt に手で反映していた部分が、メタ学習ループに乗ります。
3. Claude Code — keynote で出た新機能
全部 beta 〜 早期 GA 段階ですが、いずれも実運用に効きます。
Code Review tool
Claude Code 内蔵の PR / 差分レビュー機能が公式機能化。これまで slash command や ad-hoc な指示で実現していた「自分の差分を別視点で読み直してもらう」を、専用の hook と UI で行えます。/ultrareview と棲み分けつつ、ローカル無料の review 一次フィルタとして日常運用に入ります。
Remote Agents — 携帯から laptop を操作
スマホから自分のローカル開発環境上の Claude Code を呼ぶ運用パターンが公式サポートに。家を出てから「あ、あの修正やり忘れた」と思っても、コミット〜PR 化まで携帯で済ませられるのが現実的になりました。
セキュリティ観点での要点:
- 接続は Anthropic 側の relay ではなく、ユーザー所有の identity 経由でテザリングされる
- ローカル machine 側で
claude code remote serve系のプロセスが必要(つまり機密性の高いリポでは off にできる) - 使用にはアカウント認証 + 端末 pairing が必要
CI auto-fix
CI が落ちたら自動で PR を上げる仕組み。GitHub Actions 連携が中心で、**「赤 → Claude が原因解析 → 修正コミットを branch に push → PR を更新」**を全自動で走らせる runner が整備されました。
# .github/workflows/claude-auto-fix.yml(イメージ)
on:
workflow_run:
workflows: ["CI"]
types: [completed]
jobs:
autofix:
if: github.event.workflow_run.conclusion == 'failure'
runs-on: ubuntu-latest
steps:
- uses: anthropics/claude-code-autofix@v1
with:
mode: "patch"
max-attempts: 3
CI が落ちる頻度の高いコードベースでは人間の介在を後ろに回すための一手として効きます。ガードレール(max-attempts、disallowed-paths 等)の設計だけは慎重に。
Security Reviews
/security-review が公式 skill として標準同梱に。差分の中で credentials の露出、SQL 文字列結合、認証回避経路、CSRF 抜け、CSP 緩和などをチェックする流れがそのまま手元で走ります。OWASP top 10 ライクな観点をデフォルトで載せたい人に。
Routines — 非同期自動化と PR スケジュール
これは実体としては Anthropic 側の cron / 任意トリガーで Claude Code を呼ぶ runner。「毎日 10:00 に dependency update PR を作る」「特定 webhook でデプロイ前 review を走らせる」といった人間不在での反復タスクを専用に扱う層です。
これまで個人で GitHub Actions に書いていた運用 PR 系の自動化を Anthropic 側のホストで走らせられるため、自前ランナー無しで組めるのが魅力。
4. API — Task Budgets と Advisor Tool
ここはこのブログでも別記事で深掘りしています。keynote ベースの位置付けだけ整理します。
Task Budgets(public beta)
Opus 4.7 専用。output_config.task_budget でエージェントループ全体の token 予算を渡すと、Claude が残量を見ながらペース配分して、予算ギリギリで「今ある成果をまとめて締める」ふるまいを取ります。
- beta header:
task-budgets-2026-03-13 - 最低値: 20,000 tokens(以下は 400 で reject)
- soft cap(advisory)。
max_tokensと組み合わせるのが定石
詳細は Task Budgets 実践ガイド で。
Advisor Tool(beta)
速い executor が、賢い advisor に途中で相談する枠組み。executor は Sonnet 4.6 / Haiku 4.5、advisor は Opus 4.7 という組み合わせが本命で、Sonnet 単独より高品質、Opus 単独より大幅に安価を狙えます。
- beta header:
advisor-tool-2026-03-01 - tool type:
advisor_20260301 - 内部で別 inference を回し、advisor の plan を executor に流し込む
詳細は Advisor Tool 実践 で。
5. その他: Finance Agents と Microsoft 365
keynote 前日に発表された Claude for Financial Services(2026-05-05)も、Code with Claude の流れの一部として位置付けられました。10 個の業務 agent テンプレ、Microsoft 365(Excel / PowerPoint / Word)との直結、Moody’s MCP 等を含む 8 つの新コネクタ。詳細は Finance Agents 解説 を参照。
どの順で触るのが良いか
個人/少人数チーム:
- rate limit 倍化 を体感: 重いタスクをためらわず投げてみる
- Claude Code の
/security-review、Code Review を CI 前のローカル一次レビューに固定化 - Routines で「毎週月曜の依存更新 PR」など反復タスクを 1 件試す
- API 直叩きで何かを作っているなら Advisor Tool をまず触る(コスト効率が分かりやすい)
プロダクトに Agent を載せている層:
- Outcomes で「収束条件」を契約として書き直す
- Multi-agent orchestration で「子 agent に独立コンテキストを切る」設計に書き換え
- 長時間 loop には Task Budgets を最初から噛ませて総 token 消費の上限を運用契約として固定
- Dreaming は研究プレビューだが、self-improve のフックを差せる場所を空けておく
エンタープライズ / プラットフォーム責任者:
- rate limit 倍化 を踏まえた新規ユースケースの再評価(従来落としていたもの)
- CI auto-fix の運用ガードレール(allowed paths、required reviewers、policy refusal の挙動)を先に固める
- Remote Agents は organization 単位で off にできる設計(機密リポでは禁止する運用)を先に整える
まとめ
新モデル発表が無かったぶん、既存モデルの上に積む実運用ツールが一気に揃った回でした。インフラ(SpaceX / rate limit)、Managed Agents の 3 機能、Claude Code の運用機能、API の Task Budgets / Advisor——どれも「人間の手が遅れる場所をエージェント側で吸う」方向に揃っています。
「速く回せばいい」ではなく「自律で収束させる」が今年のテーマです。outcome を宣言する、budget を渡す、advisor に相談させる、failure 時に CI が auto-fix する——keynote の各機能はそのための部品として一貫しています。