コスト・モデル戦略シリーズでは、価格(1 トークンいくら)と スループット(1 分に何トークン)を扱ってきました。残る第三の軸が レイテンシ——「出力がどれだけ速く出るか」です。これを直接買えるのが Fast mode(research preview)。Opus 4.8 / Opus 4.7 の出力を最大 2.5 倍速くします。ただし単価は 2 倍。本記事は、この「レイテンシ編」として、Fast mode の効き方と使いどころ、そして誤解されやすい OTPS と TTFT の違いを整理します。
到達点
- Fast mode が速くするのは OTPS であって TTFT ではないことを理解する
- 有効化の仕方(
speed: "fast"+ beta ヘッダ)と2 倍の価格 - 対応モデルと、Opus 4.7 Fast mode の 2026-07-24 廃止
- 専用レート制限・
usage.speedの確認・フォールバック - 「速さを金で買う」べき場面と、そうでない場面
Fast mode とは
Fast mode は、同じモデルを速い推論構成で走らせる機能です。知能や振る舞いは変わりません(別モデルではない)。
- 出力トークン毎秒(OTPS)が最大 2.5 倍
- モデルの重みも挙動も同じ——質のトレードオフはない
- ストリーミングで OTPS の効果が最も見えやすい
有効化は、speed: "fast" を指定し、beta ヘッダ fast-mode-2026-02-01 を付けるだけです(research preview のため、アクセスは account manager 経由か waitlist)。
curl https://api.anthropic.com/v1/messages \
--header "anthropic-beta: fast-mode-2026-02-01" \
--data '{
"model": "claude-opus-4-8",
"max_tokens": 4096,
"speed": "fast",
"messages": [{ "role": "user", "content": "..." }]
}'
核心:速くなるのは OTPS、TTFT ではない
ここが最重要かつ誤解されやすい点です。Fast mode の効果は **OTPS(出力の生成速度)**に集中しており、TTFT(最初のトークンが返るまでの時間)は速くしません。
- 効く:長い出力をストリーミングで流す場面。生成が始まってから完了までの総時間が短くなる
- 効かない:短い応答や、「最初の反応の速さ」を求める用途。待ち始めの体感は変わらない
つまり Fast mode は「返答が始まるまで」ではなく「返答が流れ切るまで」を速くする。長文生成・大きなリファクタ・詳細なコード出力のように、出力量が多いタスクでこそ価値が出ます。短い一問一答に付けても体感は変わらず、単価だけ 2 倍になります。
価格:標準の2倍
Fast mode は標準レートに対する per-model の倍率で、200k 超の入力を含む全コンテキストに適用されます。
| モデル | 入力 | 出力 | (参考)標準 |
|---|---|---|---|
| Opus 4.8 | $10 | $50 | $5 / $25 |
| Opus 4.7 | $30 | $150 | $15 / $75 |
Opus 4.8 でちょうど 2 倍。プロンプトキャッシュや data residency の倍率はこの上に乗ります。
対応モデルと 7/24 の廃止
- Opus 4.8:対応(research preview、Claude API と Managed Agents のみ。Bedrock / Vertex / Foundry は非対応)
- Opus 4.7:対応だが 2026-06-25 に deprecated、2026-07-24 に削除。以降
speed: "fast"はエラー(標準速度へのフォールバックは無い。モデル自体は標準速度で存続)。Fast mode を続けるなら Opus 4.8 へ移行 - Opus 4.6:
speed: "fast"を送ってもエラーにならず標準速度で実行され、標準料金で課金(usage.speed: "standard") - その他のモデル:
speed: "fast"はエラー
タイムリーな注意:Opus 4.7 で Fast mode を使っているなら、7/24 までに Opus 4.8 へ移行を。4.7 は 4.6 と違いフォールバックせずエラーになります。
専用レート制限とフォールバック
Fast mode は 標準 Opus とは別枠の専用レート制限を持ちます。超過すると 429(容量不足時は 529)が返り、黙って標準速度に落ちることはありません。状態は anthropic-fast-* ヘッダで確認でき、実際にどちらで処理されたかは レスポンスの usage.speed("fast" / "standard")で分かります。
{ "usage": { "input_tokens": 8, "output_tokens": 12, "speed": "fast" } }
フォールバック設計:Fast の容量待ちを避けたいなら、429 を捕まえて speed: "fast" を外して再試行する——というクライアント側の実装が推奨されています。ただし speed が違うとキャッシュのプレフィックスは共有されないため、フォールバックするとキャッシュミスになる点に注意。
使いどころ
| 状況 | Fast mode |
|---|---|
| 長い出力をストリーミングで見せる(対話コーディング等) | ✅ 総時間が縮む |
| 大きなリファクタ・詳細な生成 | ✅ 出力量が多いほど効く |
| 短い応答・分類・抽出 | ❌ OTPS の恩恵が薄く単価だけ 2 倍 |
| 「最初の反応」を速くしたい | ❌ TTFT は変わらない |
| バッチ・非同期処理 | ❌ Batch API では使えない |
「速さを金で買う」判断は、出力が長く・人が待っているときに正当化されます。逆に、非同期で回すバッチや短い応答では、標準速度 + キャッシュや安いモデルの方が費用対効果が高い。
注意点
- キャッシュ:fast ↔ standard を切り替えるとキャッシュが無効化(異なる速度はプレフィックスを共有しない)
- Batch API 非対応・Priority Tier 非対応・Claude Platform on AWS 非対応
- TTFT は速くならない:体感の「待ち始め」を縮めたい用途には効かない
- research preview:アクセスは限定。仕様は変わりうる
- 質は同じ:速いだけで賢さは変わらない——「速い = 雑」ではない点は安心材料
まとめ
Fast mode は、コスト・モデル戦略の第三の軸=レイテンシを直接買う機能です。Opus 4.8 / 4.7 の OTPS を最大 2.5 倍にする代わりに単価は 2 倍。効くのは OTPS(出力の生成速度)であって TTFT(最初のトークン)ではないため、長い出力をストリーミングで見せる場面でこそ価値が出ます。Opus 4.7 の Fast mode は 7/24 に削除(以降エラー)なので、使っているなら Opus 4.8 へ移行を。
勘所は 3 つ — OTPS を速くするだけで TTFT は変わらないと理解する、長い出力・人が待つ場面に絞る、7/24 までに Opus 4.7→4.8 を移行する。価格・スループット・レイテンシの 3 軸を揃えて初めて、「どのモデルを・どの設定で・いくらで・どれだけ速く」回すかを設計できます。